飛行機は時々がたがたと揺れた。操縦席のコンピーがふり向いて、歯を見せて笑い、
前方を指さして見せると、視界いっぱいに、大きく、高く、広々と、陽を浴びて
信じがたいほど白々と輝いているのは、キリマンジャロの四角い頂上であった。
あ、これが目ざす目的地だな、と彼は気づいた。
「キリマンジャロの雪」 アーネスト・ヘミングウェイ著 佐伯彰一・訳 講談社
ギルマンズ・ポイントからウフル・ピークまでは2.5km。ヘミングウェイは「四角い」と書いているが、ほとんど真ん丸の7kmほどのクレーターの外輪山を3分の1周する。大体は水平歩行なのだが、ずっと標高5800m前後の高所のために息苦しさが続く。片道1時間は要する。
広々とした雪原の中の一本道を抜けると、クレーター側に鋭く削り取られ、凍てついた岩場の上を恐る恐る歩く。足を滑らせたら大変だ。キボ・ホテルの登山用具レンタル室でスキーストックに似た杖を持って行かないかと言われたが、断ったのだ… ここに来て必要性が理解できた。
火口側の斜面にも眩しく日が射したが、その下はガスがかかり、底を見ることはできなかった。
30分も歩くと、すでにウフル・ピークに登頂し、下山しているパーティーとすれ違う。4日間、同じコースを歩いているので顔見知りが多く「後10分だよ」とか「すぐそこが頂上だ」と言ってくれるのだが、なかなか、ナカナカである。起伏に乏しい登山はどこが頂上かわかりにくいのだ。
頂上が近づいたと思われた頃、ラッシェル氷河の上部に出くわした。赤道の南、わずか340kmほどの場所なのに、こんなにデッカイ氷の塊があると信じられますか。山麓から見ると「キリマンジャロの雪」なのだが、ここに来て初めて雪だけではなく、氷河があることを確認する。
少しずつ晴れ間が多くなり、氷河の向こうにタンザニア側の平原が少し見えるようになった。
縦にシワシワのある絶壁とツルッとしたテーブル型の一枚氷。それらが交互に斜面に沿い、階段状に構成されている。そんな不思議な光景を横目に見ながら、気持ちは焦っていた。我々よりも後方のパーティーはギルマンズ・ポイントで折り返し、下山してしまうのでは思っていた。
ウフル・ピークを目の前にして、雪の上に四つん這いになって息を整える回数が増えた。
頂上は前を歩いていたパーティーが標示板の前で写真を撮っていたのでわかった。何もなかったら通り過ぎてしまいそうなほど、平坦な雪原だった。ガイドのヘディックさんと握手をした。彼は祝福の言葉を言ってくれたように思うが聞き取れなかった。アフリカでいちばん高い所に立っているという想いが胸に立ちこめた。2004年10月13日午前7時8分。記念すべき日となった。
風で吹き飛ばされたのか、雪は少なめ。でも、
豹の屍は見あたらないし、
ニエレレ初代大統領のレリーフもどこにあるのかわからない。この写真を見てから気づいたのだが、右端に薄く見える山影はタンザニアの第二峰、
メルー山(4567m)だと思う。アルーシャの近くの単独峰である。
【LOG in BLOG】05.3.16
「いかなご」という魚をご存じですか。成長すると25cmほどの細長い海水魚で、全国各地で穫れます。料理法は焼いて二杯酢(酢と醤油)で食べるというのが最も一般的ではないでしょうか。
ところが、神戸市西部と明石市だけで伝わる「いかなご」の稚魚を使っての佃煮があるのです。「くぎ煮」と言います。3〜5cmの生まれたばかりの稚魚でつくりますので、時期が3月上旬から4月上旬に限られます。垂水港と明石港から陸揚げされたものを、その日の内に佃煮にします。
この時期、我が家は大変忙しくなります。朝9時にはクルマで垂水駅近くのスーパーマーケットに行きます。因みに垂水駅前の広場には「いかなご」を形取ったモニュメントがあります。
スーパーは10時開店ですが、長い行列ができます。ビニールの袋に入った1kgの稚魚が800〜900円。それを10袋ぐらいは買って持ち帰り、午前11時ぐらいから3〜4時間かけて、我が家の台所で美枝子が調理します。昼食も立ったまま食べねばならないほどの忙しさです。
おいしいですよ。我が家の「いかなごのくぎ煮」のラベルをご紹介しますが、一般に売られているわけではありません。調理法についてお知りになりたい方は
こちらのHPで。