アフリカ美術は、何よりも宗教が決定的要因をなすものである。
作り手は神が宿る場所であるかのように、造形してきたのである。
「アフリカの彫刻」カルル・アインシュタイン著 桐島敬子・編訳 岩崎美術社
1922年にドイツで出版され、邦訳は1984年。双書美術の泉 (E)と略す。
アフリカのニグロ彫刻に直接の暗示を受けて、キュビズムが誕生する。
ピカソやブラックが現代芸術に独特の貢献をすることになった。
「彫刻の芸術」ハーバート・リード著 宇佐見英治・訳 みすず書房
1954年にアメリカで出版され、邦訳は1957年。 (R)と略す。
アフリカ美術はとてつもなく幅が広く、大陸全体が文化の坩堝なのだ。
ブロンズ鋳造や木彫りの伝統技法は高度な発達をとげ、彫刻師は尊敬されていた。
「彫刻入門」メアリー・ジェーン・オピー著 西嶋憲生・訳 同朋舎出版
1994年にイギリスで出版され、邦訳は1996年。ビジュアル美術館 (O)と略す。
アフリカにおける彫刻の歴史は、ほぼ赤道沿いに西から東へ移動してきたのではないだろうか。
そして、不思議な話しなのだが、木彫りではなく、ブロンズ鋳造が源流になっているのだ。
<ナイジェリア>
ブロンズ鋳造は古代エジプトで誕生し、ギリシャで発達しているが、西アフリカでも独自の発展を遂げた。当時、脱ロウ法というヨーロッパでも類が見られない優秀な工芸技術を駆使していたらしい。ロウを熱で溶かして銅を流し込み、1〜3ミリという薄さで鋳造を施している。
左の少女像の帽子と首飾りは高貴な身分を証明するもの。リードは「偉大な彫刻がもつ普遍的な特質をもつ」と絶賛している。ベルリン民族学博物館所蔵だが、吹田市の国立民族学博物館に複製が置かれている。前後左右、どの角度から観ても優美さに溢れている。脱ロウ法の代表作。
右の肖像の顔には縦の模様が彫られ、これが以降の木彫の流れになる。以上4点ともブロンズ。
20年ほど前にNHKテレビが8回に分けて放送した英国MBTV制作のドキュメンタリー「アフリカ」という番組があった。そのタイトル・バックが上載の「ベエニン王国の少女像」で、番組の中で「これらのブロンズを最初に見たヨーロッパ人はアフリカでつくられたものとは信じなかった。でも、今はそんなことを言う人はいない」と語られている。また、「西アフリカにおける王国の王は法的に縛られていた。ヨーロッパの王国よりも合理的である」とも。
<ガボン>
ナイジェリアの「イフェ族の肖像」の浮き彫りがガボンでは幾何学的模様となってくる。
左の像は金属板をたたいて、中央の像は金属線を使って、細かい模様を刻んでいる。二作ともモダンなフォルムだが、死者の霊を保護するための守護神である。
右の宗教儀式用の木彫は目に銅版のはめ込んで、すべてを見通す呪力を持つと信じられている。
<コンゴ民主共和国(旧国名ザイール)>
タンザニアの西隣の国のコンゴの彫刻は、一段と幾何学的模様が顕著に見られるようになる。
アインシュタインもリードもアフリカの彫刻を論ずるうえで、コンゴの木彫を主体にしている。
アインシュタインの「アフリカの彫刻」では65点の彫刻を写真で紹介しているが、うち35点はコンゴのものである。では、なぜ、中央アフリカの国であるコンゴで彫刻が爛熟したのか。
コンゴには200もの民族が混在していて、それぞれに独創的な木彫りをつくっている。そのようになった根拠がわかりにくいのだが、平凡社の「世界の民族」にこのような一文があった。
「コンゴ盆地は油ヤシやゴムの木が繁茂し、綿やトウモロコシが栽培でき、豊かであった。
諸部族は先祖崇拝に基づいた宗教をもち、多彩な彫刻や華麗な物質文化を発展させた。」
<タンザニア>
さて、上記の三つの著書ではあまり触れていないが、タンザニアの彫刻が、近年、注目の的。
左の女性像はへそが乳房と同じくらい突出している。耳の環と上唇に金属がはめられている。腰にビーズの衣をまとう。幾何学的模様ではないが、胸と腹部に模様のようなキズが刻んである。
右のユーモラスな椅子はイスラム国王のために作ったものだが、ベルリン民族学博物館に所蔵。
いずれも「古典マコンデ」とか「伝統マコンデ」と呼ばれるものである。
【LOG in BLOG】06.1.1
新年おめでとうございます。
大方のご夫婦はそうじゃないかと思いますが、投稿者である我々夫婦も、趣味、趣向、その他、すべての点で別民族のごとく「違ってるなぁ」と思いながら共同生活しています。
でも、我々には、ひとつだけ共通点があります。それが「犬好き」ということです。
犬好き人間には「犬が好きな人」と「犬が好きでない人」を嗅ぎ分ける能力があるのです。
新年は年賀状などで犬の絵を見る機会が多いわけですが、「犬好きが描いた犬」ということでは、このムツゴロー氏の絵を推します。左の絵は子犬の頃。片方の後ろ足が内に向いているところが可愛いのです。右の絵は同じ犬が老いてから。老犬は哲学者のように見えませんか。
皆々さま、本年もよろしくお願いします。
このブログ、エンディングに近づいてきました。今しばらく、おつき合いのほど。