素敵な小説、素晴らしい映画。
ドラマはこの美しい森の中で生まれた。
カレン・ブリクセンは本名で、アイザック・ディネーセンというペンネームの方が有名である。
男性のようなペンネームだが、デンマークの女流作家である。貴族ブロル・ブリクセンと結婚し、ケニアに渡り、広大なコーヒー農園を経営する。農場での女主人としての18年間…
そのいきいきと燃えたつような日常を活写して、長篇小説に書き上げた「アフリカの日々」が代表作である。自伝文学の白眉であり、20世紀最高の作品のひとつという評価を得ている。
それを映画化したのが、シドニー・ポラック監督、メリル・ストリープとロバート・レッド
フォードが共演した「愛と哀しみの果て」である。アカデミー賞を数多く取った名画だ。
この博物館は彼女が1917年から1931年まで住んだコロニアル風の邸で、家具、調度品や書籍がそのままの形で残されていて、彼女の面影を偲ばせる品々があちこちで見られる。
コーヒー農園があったンゴング丘陵のふもと、海抜1800mの景勝地にすばらしい邸宅と庭園が並んでいる。個人住宅でこれほどまでに贅沢なものはそうないのではないだろうか。
「キリマンジャロの雪」を書いた後のヘミングウェイがノーベル文学賞を受賞する時に、
「遺憾に思うのは、あの麗しい作家であるディネーセンに賞を与えられたとすれば、
私は、今日、もっとうれしく、無上にうれしく思ったことでしょう」と語っている。
「アーネスト・ヘミングウェイ」 カーロス・ベイカー著 大橋健三郎・訳 新潮社
確かに、我々は翻訳で読むのだが、
ディネーセンの文章には匂いたつものがある。
アメリカからヘミングウェイ、北欧からディネーセン。同じ時代に同じように東アフリカを訪れて、そこを舞台にした文学で注目を浴びていたのだ。これって、不可思議な何かがあるのでは…
ディネーセンには「アフリカの日々」以外に、グルメには必読の「バベットの晩餐会」があり、これも映画化され、アカデミー外国映画賞を受賞している。
「アフリカの日々」 アイザック・ディネーセン著 横山貞子・訳 晶文社 2625円
「バベットの晩餐会」 アイザック・ディネーセン著 枡田啓介・訳 ちくま文庫 714円